マーケティングや心理学の本を読んでいると必ずと言っていいほど登場する法則があります。
選択肢が多すぎると人は選べなくなるという現象ですが、最近ネットでジャムの法則に関する嘘というキーワードを見かけて、気になっている方も多いのではないでしょうか。
私自身もシーナ・アイエンガー教授が提唱したこの法則や、そこから派生した決定回避の法則のメカニズムを学んできた一人なので、真相がすごく気になって調べてみたんです。
選択肢が多いほど自由になるはずが逆に満足度が下がるという選択のパラドックスも合わせてよく語られますが、実は後になってジャムの法則の追試が世界中で行われた結果、同じような結果が出なかったという再現性の問題が話題になっているみたいですね。
この記事では、なぜそのように言われるようになってしまったのか、そして私たちがビジネスや日常の買い物でどのように活用していけばいいのかを、分かりやすく紐解いていきたいなと思います。
これを読めば、ただの誤解に振り回されることなく、本当の意味で相手の心理に寄り添った選択肢の作り方が見えてくるはずです。
私たちが信じている「よくある常識・思い込み」
まずは、そもそもこの法則がどのようなものだったのか、私たちが今まで常識として信じ込んできた内容をもう一度おさらいしてみましょう。ここをしっかり確認しておくことで、後から出てくる嘘と言われる理由がすんなりと理解できるはずですよ。
マーケティングの常識「ジャムの法則」の基礎知識
ジャムの法則は、コロンビア大学のシーナ・アイエンガー教授とマーク・レッパー氏が2000年に発表した、あまりにも有名な実験が元になっています。カリフォルニア州にある高級スーパーマーケットの試食コーナーで、ある週末には24種類のジャム(多品種)を並べ、別の週末には6種類のジャム(少品種)を並べて、お客さんの反応を比べるというものでした。
結果は皆さんご存知の通り、ものすごくセンセーショナルなものでした。24種類のジャムを並べた時は60パーセントの人が足を止めたのに対し、購入したのはわずか3パーセントでした。一方で、6種類のジャムの時は40パーセントの人しか足を止めなかったのに、なんと30パーセントもの人が購入してくれたんです。
・24種類:立ち止まった人60パーセント、購入した人3パーセント
・6種類:立ち止まった人40パーセント、購入した人30パーセント
・選択肢が少ない方が、売上が10倍も高かった
この分かりやすい結果から、選択肢が多すぎると人は情報処理が追いつかなくなり、結果的に選ぶこと自体を放棄してしまうという心理が働くのだと結論づけられました。これが、マーケティングの世界で長年語り継がれてきた鉄則なんですよね。
広まってしまった「選択肢を減らせば必ず売れる」という誤解
この実験結果があまりにもキャッチーで分かりやすかったため、世の中には選択肢を減らせば絶対に売上が上がるという極端な解釈があっという間に広まってしまいました。あなたも、メニューは3つに絞った方がいいといったアドバイスをどこかで聞いたことがありませんか。
この現象は、心理学者のバリー・シュワルツが提唱した、選択肢が多いほど逆に満足度が下がるという選択のパラドックスという言葉と一緒に、ビジネスの現場で絶対的なルールのように扱われるようになりました。
選択肢が多い=悪
選択肢が少ない=善
という単純な二元論で考えてしまうこと。これは非常に危険な思い込みです。
しかし、実際のビジネスの現場を見てみると、品揃えが豊富な大型スーパーや、無数の商品が並ぶネットショップがちゃんと繁盛しているのも事実です。つまり、選択肢を減らせば必ず売れるという魔法の杖は存在しないということですね。この極端な誤解こそが、後に嘘という言葉を生み出す引き金になってしまったのかなと思います。
常識を覆す事実!「ジャムの法則は嘘」と言われる真相
ここからが本題です。絶対に正しいと信じられてきたこの法則が、なぜ根底から覆され、嘘だと言われるようになってしまったのでしょうか。その背景には、科学的な検証の積み重ねがありました。決して誰かが悪意を持って嘘を広めたわけではないんです。
2010年の「メタ分析」による反証と追試の失敗
嘘と言われる決定的なきっかけになったのは、2010年に発表されたある大規模な研究データでした。スイスのバーゼル大学のベンジャミン・シャイベヘンネ博士らが、過去に行われた選択肢の数と購買意欲に関する50件もの研究や実験データを統合して、メタ分析と呼ばれる非常に精度の高い分析を行ったんです。
その結果は、世界中のマーケターたちを驚かせるものでした。50件の膨大なデータを平均してみると、なんと選択肢の多さと購買率の相関関係(効果量)はほぼゼロだったんです。つまり、選択肢が多いからといって必ずしも決定回避が起きるわけではない、という明確な証拠が突きつけられたことになります。
複数の独立した研究結果を収集・統合し、統計学的に分析する手法のこと。単独の実験結果よりもはるかに信頼性が高いとされています。
さらに、ジャムの法則が発表された後、世界中の研究者が様々な商品を使って似たような実験(追試)を行ったのですが、アイエンガー教授の実験のように売上が10倍も変わるような極端な結果を再現できないケースが多発しました。科学の世界では、誰がやっても同じ結果になる再現性が非常に重視されるため、再現できない実験=一般化できない(嘘)というふうに語られるようになってしまったんですね。
シーナ・アイエンガー教授の研究は捏造だったのか?
ここで当然湧いてくるのが、じゃあアイエンガー教授のあの有名な実験は捏造だったの?という疑問ですよね。結論から言うと、実験のデータ自体は事実であり、決して捏造されたものではありません。
問題だったのは、あの高級スーパーマーケットで、特定のジャムを使った、特定の条件下でのみ起きた現象を、世の中のあらゆるビジネスに当てはまる万能の法則だと私たちが勝手に勘違いしてしまったことなんです。
人間が多すぎる情報に対して心理的なストレスを感じるという決定回避の法則の概念自体は、決して嘘ではありません。ただ、選択肢を減らすというアプローチが効果を発揮するのは、ごく一部の限られた状況だけだったということが分かってきたんです。だからこそ、その状況を正確に見極めることが私たちには求められているんですね。
視点を変える!「ジャムの法則」が発動してしまう4つの条件
法則が嘘ではなく条件付きの現象だと分かった今、私たちが考えるべきなのは「選択肢を減らすべきか否か」ではなく「どんな時に選択肢の多さがマイナスに働いてしまうのか」という視点です。ここでは、その4つの条件を詳しく解説していきますね。
条件1:顧客に「明確な好み(事前知識)」がない場合
1つ目の条件は、顧客がその商品カテゴリーについてよく知らない、つまり初心者である場合です。ワインや投資信託などを思い浮かべてみてください。知識がない状態で50種類のワインを並べられても、どれを選べばいいか全く分からず混乱してしまいますよね。
こういった事前知識の欠如がある状態では、選択肢が多いことはただの苦痛になり、ジャムの法則が発動しやすくなります。一方で、レコード収集家やカメラ好きのような専門知識を持つマニアであれば、選択肢は多ければ多いほど宝探しのように喜ばれ、購買率も上がる傾向があります。
・初心者向けのサービス:選択肢は厳選して少なくする(迷わせない)
・マニア・専門家向けのサービス:選択肢を豊富に用意する(選ぶ楽しさを提供する)
条件2:選択肢が「分類(カテゴライズ)」されていない場合
2つ目は、選択肢が分かりやすく整理・分類されていない場合です。いくら種類が多くても、顧客が自分が欲しいものを探しやすくなっていれば大きな問題にはなりません。
例えば、動画配信サービスのNetflixやAmazonプライムビデオには数え切れないほどの作品がありますが、アクション、恋愛、国内ドラマ、おすすめといったように、明確なカテゴリー分けがされていますよね。そのため、私たちは自分の好みのカテゴリーから数作品を比較するだけで済みます。
これなら、全体の選択肢は膨大でも、脳にかかる負担は少なくなるので離脱されにくくなります。ネットショップのメニューやカテゴリー設計がとても重要なのは、まさにこのためなんですね。
条件3:それぞれの「比較」がパッと見で難しい場合
3つ目の条件は、商品同士の違いを比較するのが難しい場合です。価格や成分、得られるメリットなどが複雑で、パッと見で違いが分からないと、顧客はどれが自分に最適なのかを考えることに疲弊してしまい、結果的に買うのをやめてしまいます。
スマートフォンの料金プランや保険の契約などがいい例かもしれません。選択肢が多い上に比較項目が複雑すぎると、選ぶのが嫌になってしまいますよね。選択肢を用意する時は、それぞれの特徴が一目で分かるように工夫することが不可欠です。
| 比較しやすい例 | 比較しにくい例 | 対策 |
|---|---|---|
| 松・竹・梅のようにグレードが明確 | 機能が細かく違いすぎる同価格帯の製品 | 比較表を作成し、違いを視覚化する |
条件4:選ぶのに「時間的なプレッシャー」がある場合
最後の条件は、時間的な余裕がない場合です。急いで選ばなければならない状況で選択肢が多すぎると、人はパニックになりやすく、決定回避が強く働きます。
例えば、駅の立ち食いそば屋やラーメン屋の券売機で、後ろに人が並んでいる時にメニューが100種類もあったら焦ってしまいますよね。そういう時は、店長のおすすめセットのようないくつかの分かりやすい選択肢だけが大きく表示されている方が、はるかに親切です。
逆を言えば、休日に自宅でゆっくりとネットショッピングを楽しんでいるような、時間的プレッシャーがない状況であれば、選択肢が多くてもじっくり比較検討を楽しめるということです。
まとめ&明日からのネクストアクション
今回は、有名な心理法則が実は嘘だと言われている真相と、その正しい使い方について見てきました。最後に、学んだことを実践につなげるためのポイントと、今日からすぐに取り組める具体的なアクションプランをお伝えします。
まず、今回の要点を振り返ってみましょう。ジャムの法則は完全な嘘というわけではなく、限られた条件下でのみ発動する現象でした。
- 選択肢を減らせば無条件で売れるというのは極端な誤解
- メタ分析の結果、選択肢の数と売上の相関関係はほぼゼロだった
- 法則が発動するのは、顧客に事前知識がない、分類されていない、比較が難しい、時間がない場合のみ
なお、ここでご紹介したデータや心理的な傾向はあくまで一般的な目安です。すべての業界やサービスに完全に当てはまるわけではありません。ビジネスの重要な決定を行う際などは、正確な情報は公式サイトをご確認いただいたり、最終的な判断は専門家にご相談くださいね。
明日からのネクストアクション:自社の選択肢をオーディット(監査)する3ステップ
ジャムの法則の真実を知ったあなたが明日からやるべきことは、ただ選択肢を減らすことではありません。顧客が迷わず比較できるカテゴライズができているかを見直すことです。具体的には、以下の3つのステップでご自身のサービスやブログ、商品ラインナップをチェックしてみてください。
ステップ1:顧客の知識レベルを再確認する
あなたの商品を買ってくれる人は初心者でしょうか、それともマニアでしょうか。もし初心者向けであれば、あえておすすめの3つに絞って提案するページを作ってみてください。
ステップ2:カテゴリーのラベリングを見直す
商品一覧ページを見たとき、直感的に自分がどこを見ればいいか分かりますか。もしごちゃごちゃしているなら、用途別や悩み別にカテゴリーを整理し直してみましょう。
ステップ3:パッと見の比較表を作る
似たような商品やプランが複数ある場合、それぞれの違いが一目でわかる比較表(マトリクス)を設置してみてください。顧客の脳にかかる比較検討のストレスを、あなたが肩代わりしてあげるイメージです。
ほんの少し見せ方を工夫するだけでも、顧客の反応は大きく変わるかもしれません。学んだ知識は使ってこそ価値があります。ぜひ明日、まずは1つのページからでいいので、この視点でチェックを試してみてくださいね!
